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Umwelt生物から見た世界

Sentaro
February 1st

あなたは一番聴覚の優れている生物を知っているだろうか。僕自身さいきん知ったのだが、それは、犬でもなく、猫でもなく、コウモリらしい。ほとんどのコウモリは生まれつき目が機能していないため、自ら発する超音波の反響音を頼りに空間を把握している。目が見えないにもかかわらず、障害物を避けながら飛んだり、難なく捕食ができるのも、その優れた聴覚によるものだ。生まれつき目を持っている私たちにとって、コウモリが生きる超音波の世界を想像するのはじつに困難である。また、なわばり意識の強い動物である犬は、自分のテリトリーだとアピールするため、あらゆる所に尿かけ(マーキング)を行うが、これは優れた嗅覚をもつ犬だからこそ成立する。尿には、その主の性別や大きさといったさまざまな情報が含まれており、その匂いから情報を読み取ることで、気の強い犬はたんねんに上塗りしたり、逆に気の弱い犬はおどおどしながら通り過ぎたりする。そこには人間には見えない名札が立てかけてあり、犬の世界のテリトリー争奪戦がが行われている。

生物学者のヤーコプ・フォン・ユクスキュルは、このような「生物各々の感覚や身体を通して構築された独自の世界」を「環世界(Umwelt)」と名付けた。それは客観的な環境とは全く異なるものであり、それぞれの主体が、環境の中の諸物に意味を与えて構築している世界である。生物の環世界の例として、ユクスキュルは、著書『生物から見た世界』の冒頭で、マダニの環世界を説明している。小枝にぶら下がって獲物を待ち伏せているマダニは、哺乳類の匂いを合図に、木から飛び降りる。運よく獲物の上に落ちることができたら、その血を吸うことができるが、獲物を射止めそこねた場合は、表皮全体に分布する光覚を使って、見張り場所まで戻り、獲物がくるまでひたすら待ち続ける。

この盲目で耳の聞こえない追いはぎは、嗅覚によって獲物の接近を知る。哺乳類の皮膚線から漂い出る酪酸の匂いが、このダニにとっては見張り場から離れてそちらへ身を投げろという信号(Signal)として働く。そこでダニは、敏感な温度感覚が教えてくれるなにか温かいものの上に落ちる。するとそこは獲物である温血動物の上で、あとは触覚によってなるべく毛のない場所を見つけ、獲物の皮膚組織に頭から食い込めばいい。こうしてダニは温かな血液をゆっくり自分の体内に送りこむ。

視覚・聴覚を持たない代わりに、嗅覚・触覚・温度感覚が優れたマダニが構築する独自の環世界、これこそがマダニの世界のすべてなのだ。そして、超音波で空間を把握するコウモリの環世界や嗅覚の優れた犬の環世界といったように、この世界に存在する生物の数だけ、それぞれの環世界が存在している。

環世界は動物そのものと同様に多様であり、じつに豊かだ。客観的な「環境」というものはあるかもしれないが、それぞれの主体にとってみれば、「現実」に存在しているのは、その主体が主観的につくりあげた世界である。同本の翻訳を担当した日高敏隆氏は訳者あとがきにて次のように語っている。

人々が「良い環境」というとき、それはじつは「良い環世界」のことを意味している。環世界である以上、それは主体なしには存在しえない。それがいかなる主体にとっての環世界なのか、それがつねに問題である。

この環世界という視点は、人間主義的な価値観を見直すきっかけを与えてくれる。人類は自らの都合のいいように自然を支配しようとした結果、地球環境を取り返しのつないような形で大きく変えてしまっている。人間の活動の痕跡が地球の表面を覆い尽くした「人新生」と呼ばれる時代に、「良い環境」の定義をしっかりと考えていかなければならない。人間も地球上に数多に存在する生命のひとつにすぎないという視点がいままさに求められているのだろう。

また、環世界の考え方は、私たち一人ひとりの差異を理解する手助けにもなり得る。私たち人間も生まれ育った環境、文化、言語、性別など多種多様な要素によってつくりだされる独自の環世界を生きている。文化が変われば味覚が変わり、言語が変われば世界の認識が変わるように、環境が変われば価値観も異なる。ここから発生する不一致をただ単に拒絶するのではなく、必然的な差異として捉え、理解しようする姿勢が、個人・社会をより豊かなものにしていくのだと思う。環世界という未知の世界への散策は、他者(他種)への共感を呼び起こし、多様な豊かさを発見する素晴らしい機会になると信じている。


📽The Movies We Watched

The Minimalists: Less Is Now

最低限のもので生活する「ミニマリズム」という価値観。このドキュメンタリーの中では、ただ物を減らすという手法ではなく、その背景にある根本的な価値観が語られており、現代の過剰な消費社会を一歩下がった視点から見つめ直すキッカケを与えてくれる。

Dads 父になること

「父親とは、最高の庭師だ」。父親であることの素晴らしさ、喜び、葛藤、困難。著名人から一般人まで、世界中の父親たちの物語と子育てに奮闘する姿から、現代の父親像を掘り下げた心温まるドキュメンタリー。父親になる前に、もう一度見たい作品です。

オン・ザ・ロック

ソフィア・コッポラ監督、映画スタジオのA24、Apple Original Filmsがタッグを組み製作したコメディ映画。夫の浮気調査という名目で、ラシダ・ジョーンズ演じるローラとプレイボーイなローラの父・フェリックスを演じるビル・マーレイは、夫の浮気現場を抑えるため、二人で尾行をすることなる。その過程で描かれる、親と子の関係性にすごく憧れてしまいます。クラシックで軽快な音楽も、ビル・マーレイ演じるフェリックスのチャーミングさにぴったりです😊

ソウルフル・ワールド

ピクサー初の黒人キャラクターが主役となったディズニー×ピクサーの最新作は、人生の意味について考えさせてくれる作品。ジャズピアニストを夢見るジョーはアクシデントでソウルの世界(人間が生まれる前の世界)に入ってしまい、そこで出会ったこじらせソウル(作品では22番と呼ばれている)と地上へ戻る方法を探す冒険へと出る。 つい忘れてしまいそうな人生における幸せについて気づかせてくれます。同時上映されたショートフィルム『夢追いウサギ』もまたメッセージ性に富んでいます🐰

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

ケイトリン・デヴァー演じるエイミーとビーニー・フェルドスタイン演じるモリーによる女子高生2人組の青春コメディ。高校生活のほとんどを勉強に費やしてしまった2人は、卒業前夜に失った学園生活を取りもどし楽しもうと奮闘する。 映画の冒頭(車でエイミーがモリーを迎えにくるシーン)がたまらなく面白い。他にも、モリーが自分の性格を卑下したときにエイミーがモリーをビンタ(「私の親友になんてこと言うの」と言って)するシーンも最高です😆 監督や脚本が女性主導のコメディというのがまたよいですね


😎Cool Things

下着ブランドのアンチ・キャスティング

パリとロンドンを拠点とする下着ブランド「アンダーアーギュメント」は、モデルの容姿を重んじる通常のキャスティング方法とは異なり、容姿を一切見ずに送られてきたエッセイだけでモデルを選んでいるという。マイノリティをモデルとして起用し多様性をアピールするようなマーケディングに対するカウンターとして、「アンチ・キャスティング」の手法が、今後さらに加速していくのだろう。

All Time Favorite

トースターのプレイリスト「All Time Favorite」を公開しました🎧

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Populism

2016年11月8日。 第45回アメリカ大統領選挙投票日。当時、国際政治を学んでいた僕は、この大統領選挙の行方にとても関心があった。とは言いつつも、どちらの候補が大統領になるかなど、おおよその予測はついていた。

December 14th

Be Kind and Loving

今年は以前にくらべてたくさんの映画を観るようになったので、時間が経っても思い出せるようにと、心にのこった映画は Notion のデータベースに格納するようにしている。

November 19th
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