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The Role of Fashionファッションとは何か

Sentaro
August 24th, 2020

さいきんはファッション誌をみることがひとつの楽しみになっている。ファッション誌は、性別、年齢、所得の違いによって大きくグループ分けされ、ターゲットユーザーの嗜好や価値観、ライフスタイルをもとにより細かくセグメント化されている。「育ちが良いと思われる振る舞い」や「忙しいママのための時短テクニック」など、ターゲットユーザーの関心事や生活様式に合わせた内容で編集されており、まるで、文化人類学者になったような気持ちで彼ら・彼女らのことを理解しようと試みる。そして、その過程のなかで、彼ら・彼女らが身にまとう服が多くのメッセージを含んでいることに気がつく。それらは単なる身体パッケージとしての服ではなく、社会的な意味を何重にも身にまとった記号としての服である。

20世紀初頭の時代には、日に焼けた肌は農業家や外での肉体労働の目印であったが、今日では、うんと日焼けした肌はレジャー生活(裕福な生活)のしるしでもある。かつては労働の記号として酷いものと思われていたが、今日ではレジャーを記号化するが故に美しいものだと考えられている。私たちはより多くの記号を身にまとうため、髪型や化粧、ピアスやタトゥーなど多種多様な手法でじぶんの身体を加工し記号化を試みる。そして、この記号化の延長線上に服飾というより複雑な変形作用を可能にする身体加工の行為があるのではないか。ギャザー(ひだを寄せる技法)が施された服は、柔らかい雰囲気をまとい、体のボディラインを曖昧にするし、透けるような素材は、衣服の誘惑力を高める効果もある。私たちは服を着るという行為から無意識のうちに様々な意味を含んだ記号を発動しているのだろう。

スーツやハイヒールに見られる記号としてのファッションは必ずしも機能的ではない。ネクタイを結ぶと首が苦しくなるし、ハイヒールは人間の足の形をまったく無視したフォルムでとても歩きにくく、痛みも伴う。機能的な視点からすれば不合理なものがほとんどだが、社会や文化のなかでこうあるべきという観念に支配されてしまっているファッションも存在する。こうしたいき過ぎたファッションへの抵抗として、人々はより着心地がよく、疲れない、機能的な服を求めるようになった。Netflixが制作したドキュメンタリー「explained」のアスレジャーをテーマとした回のなかで、ファッションが記号的なものから、機能的なものへ変化していく歴史がわかりやすくまとめられている。現代の私たちの服装はよりカジュアル化し、記号としてのファッションの作用が希薄化しているようにも思える。

ユニクロの代表取締役会長兼社長である柳井正氏は、NHKのインタビューで「これからの服は、一人一人が別々に変わった服を着るのではなく、いちばん気にならない服を着るようになるんじゃないか」と話している。これは言い換えると、私服の制服化ということもできるのかもしれない。ファッションを哲学した書籍『ちぐはぐな身体 ファッションって何?』の著者である鷲田清一氏は、著書のなかで「制服は装飾によって生まれる記号としての作用を服装から可能なかぎり解除し、個人の特異性・独自性を曖昧にし、平板化する役割をもつ。」と話している。ユニクロの服が好まれる背景には、現代の「個性的で自分らしくなければならない」という強迫観念から逃れるための制服を人々が求めていることが影響しているのかもしれない。

僕が大学生の頃、アルバイトで稼いだお金のほとんどを服に費やしていた。本当にファッションのことばかりを考えていた。ある日は全身を真っ白にコーディネートして授業をうけ、ある日はネクタイとセットアップで格好をつけ、食堂までの道を歩く。周囲に溶け込むようなものではなく、自分と他人の境界をはっきりさせる、そんな装いをしていた。周りの人からは、あたかもハローウィンのコスチュームを見ているような視線や鼻で笑ったような言葉で、自分のファッションに対するフィードバックをもらっていたが、僕はそれが心地よかった。自分がどういう存在で、あの人とどう違うのか。故意に周囲のノーマルを着くずすことで、じぶんの独自性を問いていたのだろう。

この1、2年は服といった服を買っていない。ユニクロアプリの購入履歴を見てもお洒落のために購入したものはシャツ一枚のみで、それ以外は運動用のアクティブパンツと下着のみだ。外出の際もTシャツに短パンといった動きやすい服装で、他人からしたら、服にはまったく興味がないというメッセージを発信しているのだろう。だからといって、ファッションに興味がなくなったという意味ではない。今でもファッションは好きだ。ただ、いまは、着飾ることとは距離をおき、地味で目立たない服を身にまとうという記号的行為を通してファッションを楽しんでいる。

ファッション業界はサステナブルという視点から特に監視の目にさらされている業界といっても過言ではない。「ファッションよりももっと考えるべきことがあるでしょ?」という世の風潮もあるなかで、ファッションという記号ゲームのプレイヤーになることは、以前よりも容易ではない。しかし、Covid-19を経験したことで、私たちはファッションの力を再認識することができた。着飾り、街にでて、他人の視線を感じとり、私たちは自分自身の存在を確認し、自分という人間を表現する。企業にとってもCovid-19を経験した世界では、服作りの目的やブランドの在り方も変わるのだろう。いま再びファッションの真価が問われている。


🌏What We Read This Week

ビジネスへのホリスティックなアプローチ

Doréはフランスで多大な影響力を持つファッションブロガー、Garance Doré (ギャランス・ドレ)が立ち上げたライフスタイルブランドで、外部(ブランドミッション、価値観、メッセージング)と内部(企業文化)の両方でつながりとウェルネスを優先している企業である。そのブランドコンセプトは、「静けさを大切にし、ゆっくりとした時間を受け入れ、スタイルと美しさを楽しむ」であり、意識のスペースを持つことは、考察の余地を与え、意志のある人生を追求することができるという。 「私が学んだことの一つは、『ビジネスの観点からみた成功とは何か』という考え方です。膨大な資金を調達して爆発的に事業が成長するという物語がありますが、それがすべての企業やビジネスにとって意味のあることなのかどうかはわかりません。」と、DoréのCOOであるEmily Note Yeston(エミリー・ノート・イエストン)は言う。一緒に仕事をしている人たちや、読者同士のつながりを通して私たちは成長してくのだと。 彼らの使命感の一つは、常にコンテンツを消費し続けることによる「過剰な刺激からの解放」であり、それは企業のブランディングにも現れている。手書きのアクセントや、個人的な経験、親密さ、信頼性に焦点を当てた文章がWebサイト全体に反映されている。 彼らは「正直さ、弱さ、またユーモアのセンス」でリードし、その結果、読者や顧客、コミュニティメンバーとの信じられないほど豊かな関係を培ってきました。今、私たちはこれまで以上に自分自身とお互いを気にする必要があるのかもしれません。企業はつながりと幸福に焦点をあて、より思いやりを持ち、持続可能な充実した未来を構築していくことが重要になっていくのだろう。

Holistic Approaches to Business

ミレニアルピンクからの脱却

穏やかでふんわりとした色合い、柔らかく丸みを帯びた形、サンセリフフォント。簡潔で親しみやすい「ミレニアルの美学」はいまやテンプレート化され多くのブランドや広告に使用されている。それらはすべて非常に洗練され、口当たりがよく、多くの人々に好まれている。だが、この「口当たりの良い」美学に対するカウンターとしての表現が現れ始めている。それは、カリグラフのセリフフォントや詳細なイラスト、ハイコントラストな色の組み合わせやグラデーションを多用したもので、ミレニアル的な表現を根元からひっくり返そうとしている。 ノンアルコールのアペリティフブランド「Ghia」の創業者メラニー・マサリンは、「すべての会話がデジタルで行われているいまだからこそ、オフラインの表現をしていきたい」と言う。彼女は自分のウェブサイトで出迎えてくれる浮遊する目(シュルレアリスムの象徴的記号)を「明晰さの目」と呼ぶ。「Dada Daily」の創始者であるクレア・オルシャンはブランドのデザインについて「私は、現実に存在しない白塗りされた世界に自分自身を閉じ込めたくなかった。私が生まれたニューヨークには、穏やかな瞬間なんて存在しない。」と話す。パステルカラーやサンセリフフォントにこだわっているブランドでも、彩度を上げ、テクスチャーやグラデーションを加え、気まぐれなディテールを取り入れている。この新しい美学は、浮かんでいる雲や擬人化されたパーツなど、ざっくばらんでジャラジャラしたイメージが特徴であり、近い将来、溶ける時計が出てきても不思議ではない。そして、今日の不安定な経済情勢とシュルレアリスムが生まれた時代背景には多くの類似点がある。スペイン風邪と第一次世界大戦の余波の中で生まれたシュルレアリスムは、一種のカウンターカルチャーの運動だった。歴史の中で最も激動だった時期を経て、フロイトやマルクスの影響も受けながら、物事の見方や既成の価値観を覆す、社会的な制限への抵抗が背景にあった。 現代の新しいブランドの表現は単なるZ世代の好みではなく、もっと根本的な流れがある。

  • 差別化:ミレニアル的なパステルなピンク色では、新しいブランドを際立たせることが難しい。人々は新しいものを受け入れる準備ができている。
  • DTCの成熟:いまではオンラインショッピングが一般的になっているため、ブランドは気負わずに、もっと柔らかいマインドで表現することが可能である。
  • コミュニティの台頭:すべての人に受け入れられなくても、より小さく、より熱心で、本当の繋がりをもった濃密なコミュニティを作ることができる。

ブランディングを含むクリエイティブなトレンドは文化の反映である。20世紀初頭のシュルレアリスムが、不穏な芸術作品を使って、クリティカルな態度を表現したように、現代のブランドは、数年前には「やり過ぎ」と思われていた言動が求められるようになっている。 モードへの抵抗(アンチ・モード)はいつの時代にも存在する。そしてアンチ・モードもいずれはモードの中に呑み込まれていく。いまはそのなしくずし的現象の転換点の時期なのかもしれない。

Moving on From Millennial Pink


📽The Movies We Watched

シング・ストリート 未来へのうた

舞台は1985年のダブリン(アイルランドの首都)。ロンドンのポップ音楽が好きで、裕福でない家庭に育つ主人公コナーは、学費節約のために、とある高校に転校させられてしまう。転校先では散々なスタートを切ったコナーだが、一人の女性との出会いをきっかけに、ユーモア溢れる仲間と共にバンド人生をスタートさせる。 脚本・制作・監督は『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』を手掛けたジョン・カーニー。音楽はもちろん、80年代を再現したファッションも素敵です。映画で登場するコニー率いるバンド「Sing Street」は、その名でSpotifyにアーティスト登録されています。サウンドトラックも公開中🎧

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August 17th

Can't Undo In The Future

新型コロナウイルスの影響で、世界中でロックダウンが施行され、人々は外出を制限し、経済活動を休止した。それに伴い、交通量が減り、飛行機も減便され、4月上旬の時点で二酸化炭素排出量が前年比17%も減少していた。都市部ではスモッグが消え、空気が透き通り、美しい青空が見えるようになった。この短期間で、地球がより地球らしく回帰していることは、日々の人間の活動がもたらす環境への影響を再認識させてくれる。

August 10th
©︎ 2021 Toasterr
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