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Populismデモクラシーの友と敵

Sentaro
December 14th, 2020

2016年11月8日。 第45回アメリカ大統領選挙投票日。当時、国際政治を学んでいた僕は、この大統領選挙の行方にとても関心があった。とは言いつつも、どちらの候補が大統領になるかなど、おおよその予測はついていた。政治経験もなく、人種差別などの過激な発言が目立つドナルド・トランプ氏と、第42代アメリカ合衆国大統領ビル・クリントン氏の妻であり、オバマ政権にて第67代アメリカ合衆国国務長官を務めた、いわゆる「エリート」であるヒラリー・クリントン氏。どちらが大国のトップにふさわしいかなど一目瞭然だった。ましてや、ニューヨークタイムズをはじめとした大手メディアも、ヒラリー氏圧勝との見方を示していた。しかし、投票の結果が開示が進むにつれて、歓喜、悲鳴、驚きの声に世界が覆われた。

トランプ大統領の誕生によってうけた衝撃は、同年6月に行われたEU離脱の是非を問う国民投票の結果でうけた衝撃と重なるようなものだった。多くのメディアが離脱は起こらないと予想していたにもかかわらず、「BREXIT=Britain and Exit(EUからの離脱)」が現実となった。ちょうどこの辺りから、「ポピュリズム」という言葉をよく耳にするようになる。エスタブリッシュメント(既成の権威的勢力)への批判や、トランプ氏に見られる白人至上主義、反移民などの過激な発言は、現在の政治に不満を持ち、声を大にして言えなかった人々の心を解放した。それが結果的に、アメリカ史上最も異端な大統領を生み出した。BREXIT に関しては、ポピュリズム政党でEUからの独立を謳うイギリス独立党の存在がなければ、国民投票の決定から勝利に至るまでのプロセスはあり得なかった。アメリカやイギリスで起きた出来事は、ポピュリズムを抜きにしては語れない。民主主義が根付いている先進国ではポピュリズム政党が圧倒的な影響力を持っており、その国の今後の方向性は不透明になってきている。いまなぜこのようなことが起きているのか。これらの問題をどのように考えればいいのだろう。

ポピュリズムとは何か

ポピュリズムという言葉の由来は、歴史的にはアメリカの人民党(ポピュリズム党)が起源とされている。19世紀末のアメリカで、共和党・民主党という二大政党による寡占支配や大企業による市場支配などの政治的・経済的権力の独占に反対して、農民や労働者の一部が団結し「第三党運動」を起こした。そのグループがアメリカ人民党であり、そのようなスタイルの政治運動が後にポピュリズムと呼ばれるようになった。ここからは「エリートを批判し、民意を政治に反映させるべきだと主張する運動」としての用いられていることが理解できる。

プリンストン大学政治学部教授のヤン=ヴェルナー・ミュラー氏は、著書『ポピュリズムとは何か』の中で、世界各国のポピュリズムの動きを踏まえて、ポピュリズムをエリートに対する底辺の批判運動、そして「反多元主義」と定義している。ポピュリストは、「真の国民を代表するのは自分たちだけだ」と主張するため、自分たちに賛同しない者を「他者」として徹底的に排除しようとする。また、ミュラー氏は「エリートへの批判はポピュリズムにとって必要条件ではあるが、十分条件ではない」言う。理由として、ポピュリストは彼らが代表者である限り代表制に賛成し、彼らが人々を導くエリートである限りエリートの存在を肯定することがあげられる。ミュラー 氏は、この「反多元主義」ポピュリズムに肯定的な要素を見出さず、民主主義の破壊者として明確に位置づけている。

『ポピュリズム デモクラシーの友と敵』の著者である、ディエゴ・ポルタレス大学政治学部准教授のクリストバル・ロビラ・カルトワッセル氏とジョージア大学国際関係学部准教授のカス・ミュデ氏は、ポピュリズム を「政治は人々の一般的な意志の表現であるべきだと主張する、薄っぺらいイデオロギーである」と話す。厚いイデオロギー(例:ファシズム、自由主義、社会主義)とは異なり、ポピュリズムのような薄いイデオロギーは柔軟性があるため、特定の政策内容によって定義することはできない。例えば、80年代から90年代まで西欧諸国で勢力を拡大したポピュリズム政党は、当初は福祉国家を批判し経済的自由主義を主張する傾向があったが、後には福祉国家を擁護する立場をとるようになった。ポピュリズムの薄いイデオロギーは、ナショナリズムやファシズムなどの厚いイデオロギーを覆い隠す衣装のようなものとして機能し、それが民主主義の脅威になる可能性がある。

次に学術的に頼りになる英語辞書で「ポピュリズム」の意味を調べてみる。オックスフォード・ラーナーズ辞書では「一般の人々の意見や希望を代表すると主張する政治の一種」、コリンズ英語辞典では「一般の人々の利益や意見を促進することを主張する政治活動や思想のことを指す」とポピュリズムを定義している。ここには、ポピュリズムが「純粋な人々」の「腐敗したエリート」に対する「反エリート運動」であるという考えが含まれているように思える。しかし、世界のポピュリズムの動きを見ると、すべてが「反エリート運動」なのかは疑問でもある。例えば、ハンガリーの大統領であるビクター・オルバン氏は、反移民政策を掲げ、セルビアおよびクロアチアとの国境にフェンスの建設を進める(いかにもヨーロッパのトランプ大統領)など、ポピュリストとして知られており、2018年の総選挙で3期目の当選を果たした。彼は国のトップに立つ政治エリートだが、彼から「反エリート」というイメージを感じることはない。これらを考慮すると、ミュラー氏が主張するように、「ポピュリズムは反多元主義である」「エリートへの批判は必要条件ではあるが、十分条件ではない」という主張が、ポピュリズムの定義として納得できる。

人民とエリート

「純粋な人々」「腐敗したエリート」「真の人々」「反エリート運動」。ポピュリズム関連の文献を読んでいると、このような言葉をよく目にする。ここでは、ポピュリズムの文脈で使われている「人民」や「エリート」という言葉が何を意味するのかを説いていく。

人民

ポピュリズム政党は、彼らの議論の中心に「人々(人民)」を配置し、ポピュリストは自分こそが「人々」の真の代表であると主張するのだ。カルトワッセル氏とミュデ氏は、イギリスの政治理論家マーガレット・カノバンに言及し、「人々」が意味する3つの要素を提示している。

第一の意味は「一般の人々」である。ポピュリスト政党は、政治エリートやメディア、高学歴者などの「特権層の人々」から無視されてきた人々を「一般の人々」と考えており、彼らのの意見や不満を表明する代表者としての自己を主張する。ポピュリズムの見方では、一般の人々は健全な心を持ち、彼らの考えは腐敗したエリートより優れており、その健全な人々の意思を政治に反映させるのがポピュリズム政党の役割なのだ。

第二の意味は「団結した人々」である。ポピュリズム政党は、個人の利益を優先する既成政党や既成政治家と異なり、全体の利益を考える「団結した人々」の代表として自らを示していると主張している。その点で彼らは、既得権益層を批判しており、これがポピュリズム闘争の引き金となり得る。

第三の意味は「私たちの人民」である。この場合の「私たち」は市民や主流派の民族を意味し、「他の人々」と区別している。これは最近ヨーロッパで見られるような、移民を「よそ者」として扱う態度や白人至上主義などに見られる人種差別に通じている。

エリート

使われる地域によって多少意味合いは異なるが、政治家や官僚、メディア、そして多くの場合は高等教育を受けた知的な人たちに共通しており、基本的には権力に基づいて定義されている。政治や経済、メディアの世界で権力を握っているエリートは、民意を無視して自分たちの狭い輪の中で権力を使いまわし、自分たちに都合の悪いことがあれば、情報や真実を国民と共有しない。ポピュリストは、このエリートに独占されている権力と富を奪い返せと主張するのだ。しかし、ここで重要なのは、ポピュリズムにおいて「人民」と「エリート」の区別の本質は道徳であり、ステータスではない。エリートであっても、自分自身がポピュリストであるだけでなく、ポピュリストに共感している人は排除される。これに関してはトランプ氏が良い例だ。彼はビジネスで成功している経済エリートである一方で、彼は政治エリートであるエスタブリッシュメントを批判していた。そして、政治エリートになって政治権力を手にした時には「私が真の国民の代表だ」と声高に言うのだ。

世界で台頭するポピュリズム

ポピュリズムは20世紀後半に登場し、21世紀に入ってからより顕著になった。実際に日常生活の中で耳にするようになったのは2016年あたりからだ。イギリスのEU離脱、トランプ大統領の誕生、これらの出来事をきっかけに、「ポピュリズム」という言葉が身近になったが、なぜこれほどまでにポピュリズムやポピュリストが台頭してきたのだろうか。

ベルリンの壁の崩壊

この問題についての朝日新聞GLOBEの元編集長である国末憲人氏意見は興味深い。彼は、著書『ポピュリズム化する世界』の中で、ポピュリズムの原点を「ベルリンの壁の崩壊」だと言及している。アメリカとソ連の冷戦は、1985年にソ連のゴルバチョフが進めた政策によって大きく緩和された。ソ連の支配下にあった東欧諸国は、共産主義の支配を離れ、独立と自由化への道を模索し始めた。ハンガリーもそれまで閉鎖されていた西オーストリアとの国境を開放し、冷戦の象徴ともいえるドイツ最大の都市を東西に分断していた「ベルリンの壁」も破壊された。それは、三四半世紀にわたって世界を規定していた東西・左右分断の時代の終焉であり、自由・民主主義・グローバル時代の始まりでもあった。それまでの世界は、ソ連とアメリカ、東西、左右別々に対立し続け、経済、社会、科学、宗教、芸術、娯楽のすべての価値観が東西左右を軸にして決定されており、その軸をもとに社会の中での立ち位置を知ることができた。しかし、ベルリンの壁が崩壊した後、人々はそれまで支配していた価値観から解放された。冷戦時代には共通の敵がいたため、人々は団結と絆を持ち、協力して安定した関係を保つことができていたが、敵がいなくなったことで、団結・絆・絶対的な価値観が失われ、自分たちの立ち位置がわからず、混乱する世の中になってしまったのだ。

技術の進化とグローバリゼーションの影響

価値観の崩壊に加え、テクノロジーの進化とグローバル化の波が拍車をかける。テクノロジーの進化により、人々の行動範囲が広がり、様々な文化や価値観に容易にアクセスできるようになったため、急速にグローバル化が進んでいった。冷戦終結後に起こったこのグローバル化は、世界の変化についていける人と、ついていけない人の格差を大きくした。そして、その潮流は現代にまで及んでいる。昨今、よく耳にする「人工知能」という言葉。近い将来、人間が行っているほとんどの仕事が人工知能が奪われるという悲観的な視点で議論されることが多いが、このディストピアの視点で語られる際に、負の影響を受ける対象として真っ先に挙げられるのが、下流階級でも上流階級でもないいわゆるホワイトカラーといわれる中流階級の人たちだ。テクノロジーの進化が進むほどに、人々は富裕層と貧困層に分断され、格差はさらに広がっていく。変化の激しい世界では、環境の変化に早く・柔軟に適応できる人が有利になる。どこにでも行けるフットワークの軽さ、語学力、IT知識など、変化が早い世界に適応するためのスキルを身につけるためには、十分なお金と時間が必要になる。上下格差のある世界では、高収入・高学歴のエリートは上がり、それを持たない労働者は下がる。東西南北に分断された冷戦時代には、共通の敵がいて、それぞれの階級の人がやるべき役割が明確だったため、エリートと庶民が団結しうまくやっていた。しかし、上と下に分かれる世界では、上に住むエリートは下に住む庶民を全く助けようとせず、自分のことしか考えていない。これらがが庶民の怒りを生み、ポピュリズムの台頭につながったと国末氏は説いている。

トランプ大統領の誕生

世界的に人気のあるシチュエーション・コメディ「フレンズ」が個人的にとても大好きで、すでに5周以上も見ているのだが、そのフレンズの中で、ドナルド・トランプ氏の名前が2回ほどでてくる。「I saw Donald Trump waiting for an elevator」「Donald Trump wants his blue blazer black」。フレンズは1994年から始まっており、トランプ氏が大統領になる前からアメリカ市民にとって名のしれた存在であったことが想像できる。もう一つ、アメリカのサンフランシスコを舞台にした「フラーハウス」というシットコムがあるが、その中で、男の子が「relax mom, I already know all the bad words. Darn, booger, and Donald trump」と話している。フラーハウスは2016年から始まった比較的新しいもので、ここでは、トランプ氏を否定的に捉えていることが想像できる。

僕自身、選挙前からトランプ氏に対する印象は良いものではなかった。過激な発言や言葉使い、悪口や批判的態度、彼の振る舞いは典型的な政治家とは全く異なっており、異端視していた。トランプ氏のように政治経験もない、差別発言しかしない人が自由と平等のアメリカの大統領になる訳が無い、ましてや、元ファーストレディで、オバマ政権時に国務長官を務めたヒラリー氏が相手となると誰にとっても勝敗は明らかにさえ思えた。トランプ氏が共和党の大統領候補になったいうだけでもビッグニュースだった。しかし、蓋を開けてみると、すべてがひっくり返った。軍事力、経済力、科学技術力などで世界をリードするアメリカのトランプ大統領が誕生した。なぜ、彼が大統領になれたのだろうか。

ラストベルトの人々

ラストベルトについては、多くの研究者が指摘している。2016年の大統領選挙でヒラリー氏の民主党が落とした、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルバニア州、オハイオ州は「ラストベルト(錆びた地帯)」と呼ばれている。もともと鉄鋼や自動車産業が盛んだった地域だが、グローバル化に伴い多くの企業が安い人件費を求めて工場を海外に移転させたため、これらの産業が衰退し、錆びついてしまったことからこの名が付けられた。ラストベルトの人々は職を失ってしまい、多くの白人の貧困層が出現した。この「置き去りにされた人々」は、自由貿易や移民を受け入れて、自国民のことを全く考えない既成政党に不満を持っていた。そこで、彼らの救世主として登場したのがトランプ氏だ。彼らの不幸を上流階級のエリートや職を奪った外国人の責任だと豪語し、TPP離脱、NAFTA離脱、貿易相手国への高関税、移民法の改正など、自国第一主義・白人至上主義・反移民を掲げ、熱狂的な支持を得た。

選挙権法の期限切れ

ビデオジャーナリストの神保哲夫氏は、共著『反グローバリゼーションとポピュリズム: 「トランプ化」する世界』の中で、トランプ大統領の誕生と選挙権法の期限切れを関連づけている。選挙権法とは投票における人種差別を禁止するための法律で、1965年に制定された。しかし、2013年の最高裁の判決でこの法律の延長が不可能になったため、各州が自由に投票のルールを作ることができるようになった。そのため、一部の州では投票所の数や投票時間を制限したり、投票時に身分証明書の提示を義務付けたりした結果、多くの州で民主党支持者が多い黒人やマイノリティが投票が困難になった。投票所の数が減ると、有権者は遠方に足を運ばなければならなくなるため、車を所有していない有権者は苦労する。また、1つの投票所で投票する有権者が増えるため、待ち時間が長くなり、忙しい有権者は投票ができない。このような困難がヒラリー氏の敗北に影響を与えたと神保氏は指摘する。この神保氏の見解を補強する考えとして、映画監督であるマイケル・ムーア氏の意見は非常に興味深い。彼は選挙前にトランプ氏が大統領になると予想していた数少ない人物の一人だ。「もし、人々が自宅のソファから X-box や PlayStation で投票することができれば、ヒラリーは地滑り的に勝利するだろう。しかし、有権者はわざわざ投票所に行かなければならない。だからトランプが勝つんだ」とムーア氏は話す。今回の選挙では選挙権法の失効で有権者の投票が難しくなった。それは、どんなに投票所が遠くても、どんなに悪天候でも、どれだけ長時間並んでも、投票のために仕事を休んででも、投票したいという熱狂的なファンがいるリーダーが有利になる。そして、そのリーダーこそがトランプ氏なのだとムーア氏は説くのだ。

マイノリティへの転落

トランプ支持者には白人が多い。その理由には、移民国家アメリカが避けて通れない問題が関係している。米国の人口構成比は、2050年にはヒスパニック系の人口が莫大に増加するということが予測されており、また、ヒスパニック系ほどの規模はないが、アジア系の人口も増加する見込みだ。つまり、白人の割合が徐々に減少していき、そう遠くない将来、白人、ヒスパニック系、アジア系の人口がほぼ同じ割合になる可能性がある。民主主義では政治的な決定は多数決で決まるため、白人の中にはマイノリティへの転落を恐れている人もいるのだ。また、彼らが移民に批判的な理由の一つに、ヨーロッパの状況が少なからず影響している。現在ヨーロッパはドイツを中心に多くの移民を受け入れており、その移民による問題が度々取り上げられている。特にイスラム国によるテロ行為は世界中に恐怖を与えている。これらの出来事が、外部からの人々を拒絶する不寛容な精神を形成していくのだろう。

バーニー・サンダースの躍進

ヒラリー氏の敗因の一つに、バーニー・サンダース氏の影響もよく取り上げられている。サンダース氏はもともと二大政党に属さない無党派の政治家だった。大統領に立候補するため民主党に入党したが、当初は大統領指名争いに加わるような存在ではなかった。しかし、2016年の民主党の大統領候補者選挙では、選挙終盤までヒラリー氏と接戦を繰り広げた。最終的にサンダース氏は負けてしまったが、トランプ氏が共和党内で大波乱をもたらしたように、サンダース氏も民主党内で大きく躍進した。これは後に、右の「トランプ旋風」、左の「サンダース旋風」とも呼ばれた。ほとんど無名だったサンダース氏が、なぜこのような躍進を遂げることができたのだろうか。

今回(2020年)の候補者選挙同様に、サンダース氏は社会に広がる格差に焦点を当ててきた。彼は自身の SNS で「今日、私たちは世界の歴史の中でも最も豊かな国に住んでいる。しかし現実では、富の多くがほんの一握りの個人によって支配されているため、ほとんど意味がない」と語っている。この格差をなくすために、彼は「富の再分配」を主張してきた。これらの主張に見られるエリートへの批判は、彼がポピュリストと呼ばれる所以の一つである。当時(2016年)彼が掲げていた政策を見てみると、時給7.25ドルの最低賃金を15ドルへ引き上げ、公立大学の授業料無料化、国の公的保険の導入などが挙げられるが、実際にこれらの政策を実行するとなると、莫大な資金が必要となる。サンダース氏はこれらの制作を実現するため、大企業や富裕層への課税を強化し、資金を集めると言うのだ。トランプ氏が「メキシコとアメリカの国境に壁を建設するが、その費用はメキシコが負担する」と言ったように、このような怪しげな理想を主張するのもポピュリストの特徴と言われている。しかし、彼らの支持者にとっては、その政策の実現可能性は問題ではない。一部の指導者やエリートが政治を支配している世界で、既存の政治に相手にされず、怒りの声を上げる度胸もない人々は、もう我慢できないのだ。そんな彼らの前にポピュリストは現れ、彼らに代わって既成の政治を支配するエスタブリッシュメントを批判し、彼らの心の声を主張する。グローバル化を進めようとするヒラリー氏の支持者は高収入の傾向があり、現状維持を望んでいるため、ポピュリスト支持者よりも不満や怒りが少ない。現状を変えたいポピュリストの支持者の熱意は、既存政党の支持者とは比較にならない。そして、先ほども述べたように、この選挙(2016年)では熱狂的な支持者をもつリーダーが有利になる。マイケル・ムーア氏が指摘したように、クリントン氏に負けたサンダース氏の支持者の「失望票」がクリントン氏の大きな痛手となった。彼らはヒラリー氏に投票するために、遠く離れた投票所や天気が荒れた中でも投票のために足を運ぶのだろうか。ましてや、自分が投票に行かなくてもヒラリー氏の勝利は確実だろうと思っていなかっただろうか。サンダース氏の躍進はトランプ大統領の誕生に少なからず影響を与えているのは確かだろう。

そして、サンダース氏はポピュリストなのかという問いに対しては、「No」と答えたい。エリートを批判するという点ではポピュリストのように見えるが、ミュラー氏が指摘したように「エリートへの批判はポピュリズムの必要条件ではあるが、十分条件ではない」。そして、サンダース氏が反多元主義的な人物でないことから、彼はポピュリストではないのだ。

メディアが必要とするトランプ

最後に、フリージャーナリストのマイケル・ローゼンブラム氏の見解を紹介したい。彼は大統領予備選の時から一貫してトランプ大統領の誕生を断言していた。理由はとてもシンプルで、「テレビが必要としているからだ」と話す。つまり、大統領選とはいえ、実際にはメディアの論理ですべてが動いており、誰がメディアや視聴者にとって面白いかで決まると言うのだ。アメリカ史上初の女性大統領になったであろうヒラリー・クリントン大統領の誕生と、異端児としてのトランプ大統領の誕生、どちらが人々を興奮させるのか。その答えとして、ヒラリー氏はつまらなかった。一方で、トランプ氏はあまりにも面白い。誰も彼のシナリオを予測することはできない。近年、リアリティ番組は非常に人気があるが、トランプ大統領の誕生は、アメリカという大国を利用した壮大なリアリティ番組であり、リアリティショーのドラマに飽きた人々が壮大で刺激的なリアリティショーを見たいという、そんな思いが関係しているのかもしれない。

ポピュリズムと民主主義

ポピュリズムと民主主義はセットにして語られることが多い。「ポピュリズムは民主主義に内在する脅威である」という見解が一般的ではあるが、果たしてそうなのだろうか。ここでは、ポピュリズムと民主主義の関係をプラスとマイナスの両面から考えていく。

そもそも、民主主義とは何か。民主主義の深堀はまた別の機会に譲るとして、ここでは民主主義という言葉が持つ二つの対立する概念を提示したい。まず一つ目は、修飾語のない「民主主義」だ。これは「民主主義とは多数決のことであり、より多くの人々が賛成したのであれば、反対した人もそれに従わなければならない」という考えに基づいている。そして二つ目は、修飾語のつく「(自由)民主主義」だ。これは「民主主義の下では、すべての人間は平等で、多数派によって抑圧されないように、少数派の意見も尊重しなければならない」という考えが根本にあり、現代世界で多くの国のモデルとなっている。しかし、この(自由)民主主義とポピュリズムは相性が悪い。(以下(自由)民主主義を民主主とする)

ポピュリズムは、自分たちこそが真の国民であり、それ以外の人々は排除されるべきだと考える。一方、民主主義は、民主的主権や多数決を尊重するだけでなく、表現の自由やマイノリティの保護などの基本的人権の保護に努め、多数派の支配を避けようとする。民主主義では多数派の意見が必ずしも正しいとは限らない。マジョリティが選んだ代表者の判断が間違っている可能性があり、それが議論の対象とされ、時には多数派の交代が起こる。一方、ポピュリズムの場合、ポピュリズム政党の行動は「民衆が望んでいたから」という理由ですべて正当化し、制度に反対する人々を躊躇なく批判する。このようなポピュリズムの例として、ハンガリーの大統領であるオルバン・ヴィクトール氏は、自分の政党に都合の悪いことを報道したメディアを罰するため、メディア機構を再編する法律を制定し、メディアに圧力をかけている。また、ポーランドの政党PiSのリーダーであるヤロスワフ・カチンスキ氏も、司法手続きを改正したり、裁判官を勝手に任命したりなど、司法の独立性を脅かしている。 彼らのようなポピュリストの特徴は、世界が目指す自由主義とは正反対であり、このような非道徳的な行為を公然と行うことだ。ハンガリーのような国では、すでに民主主義はダメージを受けており、独裁とは言えないまでも、間違いなく権威主義に向かっている。ポピュリズム は、民主主義の構成要素である「法の支配」「牽制と均衡」「言論の自由」「メディアの多元性」「マイノリティの保護」など、これまでリベラリズムの文脈で語られていたものを真向から破壊していく。ミュラー氏が、ポピュリズムを「反多元主義」とみなし、民主主義にとって脅威でしかないと述べている理由がここにある。「非自由主義的な民主主義」など存在しないのだ。

このようなポピュリズムの否定的な面をを考慮した上で、水島氏はポピュリズムの民主主義を活性化させる側面に言及しており、ベルギーの事例を用いて説いている。VB(Vlaams Block、Vlaams Belang)は、ベルギーで反移民、反イスラムを掲げたポピュリズム政党だ。多言語国家であるベルギーでは、1830年の独立以来、首都ブリュッセルを中心に主要言語がフランス語になりつつあり、フランス地方の経済発展も影響し、フランス語が話せないとエリートになれないという状況があった。このような言語問題の中でVBは支持を得ていた。1980年代、VBは、反移民(反イスラム)・反老舗政党を掲げ、政治エリートを批判し、党員に若手を迎え入れ、既得権益とは無縁の「新党」のイメージを与えようとするなど、旧来の政党との違いを強調して党の活性化を図った。VBの進出に衝撃を受けた既成政党は、他の既成政党と結束し、移民の人権を無視した非民主的な政党とは協力できないと主張し、VBを徹底的に排除しようとした。その結果、VBは選挙や議会、行政府からの排除によって、着実に影響力を失っていった。しかしその一方で、VBの躍進が既成政党に危機感を与えたのも事実であるり、多くの有力政党が新人を採用をしたり、党名を変更するなどでして、党の改革を訴えた。水島氏によれば、彼らはVBに批判され、失った支持者を取り戻すために、新党のイメージを与えようとしていたのだろうと述べる。VBの躍進は既成政党に現状を考える機会を与え、改革を促したのだ。ベルギーの例は、民主主義を活性化させるポピュリズムの好例とも言える。

ミュラー氏と水島氏が指摘するように、ポピュリズムには良い面と悪い面がある。それは、政治エリートに見放された有権者に声を与えることで政治参加を促し、これまで議論されてこなかった問題に焦点を当てるものである。一方で、マイノリティの権利や権力分離のようなリベラルな要素を否定することは、民主主義にとって脅威となり得る。この問題は、民主主義を採用している多くの国に当てはまる。

では、アメリカはどうなのか。有色人種や女性に対する差別など独裁者のような過激な発言をしていたトランプ氏がアメリカの大統領に選ばれたのは、民主主義の危機なのかもしれない。しかし、見方を変えてみると、既存の社会への不満が積もった時に、政治経験もないトランプ氏のような人物を政治に参加させる機能がアメリカ社会には残っているとも言えるのではないだろうか。アメリカの場合、議会がトランプ氏の言うことをすべて受け入れるわけではない。最高裁もきちんと独立している。大統領は裁判官を指名することができるが、指名された裁判官がトランプ氏の言うような行動をするとは限らない。ハンガリーやポーランドと違って、トランプのような人物が権力を支配しても、制度上のブレーキがあるため、やりたい放題にはできない。このことから、アメリカのポピュリズムは、リベラルな民主主義にとって、うまく機能しているとも言えるのだろう。

ポピュリズムと民主主義。それらは単独で存在することはない。イギリスの政治学者マーガレット・キャノバン氏が「ポピュリズムは民主主義の影のようなものだ」と述べているように、民主主義の体制を受け入れている限り、ポピュリズムは必ずやってくる。それは民主主義の味方にもなりうるし、敵にもなりうる。このポピュリズムとうまく付き合っていくためには、ポピュリズムの根源である「不満」を理解することが大切になる。この不満は、社会経済の不平等や格差と関係していることが多く、もし政治指導者がこの不満の原因を見誤り、間違った方向に進めば、国民は失望する。自分が選んだリーダーが不満を全く解消してくれないことに国民の不満はさらに増し、その不満の矛先は、移民やマイノリティの人々にむかう。だからこそ、民主主義のなかで生きる私たちは、ポピュリズムを盲目的に批判するのではなく、彼らと対話をし、彼らの言葉を真剣に聞こうとすることが何よりも大切なことだ。

終わりに

ここまで、ポピュリズムが民主主義に与える影響を見てきたが、民主主義の脅威はポピュリズムだけではない。現代の技術の進歩は凄まじく、あらゆる分野で日々新しい技術が生まれ、私たちの生活はより便利になっていく。一方で、この技術の進化が悪い方向に働くこともある。動画を編集する技術が高度化するとその動画がフェイクニュースかどうかを見分けることが難しくなり、インターネットの普及で自分好みの情報だけを取捨選択することができるようになると、フィルターバブルによって偏った価値観が形成されてしまう。現代はネットサーフィンをしている中で欲しいと思った商品が、インスタグラムの広告として表示される時代だ。私たちの日々の行動は1分1秒監視され、企業の都合のいいように利用されている。自分の好きなもの、親しみのあるものだけに囲まれた環境が当たり前になった今、マスメディアが支配していた時代に存在していた誰もが同じ情報を得ることができる環境が消滅してしまった。インターネットやSNSが生活に浸透したことで、誰もが同じ土俵に立つことができるようになり、誰が知的なのか、どの情報を信用していいのかわからなくなった。この予測不可能なVUCAな時代に発生する様々な要素が民主主義をさらに複雑化させているのだ。

ポピュリズムに話を戻そう。本稿では、ポピュリズムを自分たちだけが「真の人民」を代表していると主張し、その他の人々を排除しようとする「反多元主義」と定義した。近年、グローバル化した世界では、ポピュリストやポピュリズム政党が権力を獲得し、「反グローバル化」を推し進めてきた。特に民主主義が根付いている先進国でポピュリズムが台頭しており、世界の進む方向をより予測不可能なものにしている。しかし、民主主義とポピュリズムはコインの裏表であり、ポピュリズムは民主主義の脅威にも、希望にもなり得る。トランプ大統領の誕生は、グローバル化を推進する既成政党のエリートに不満を持ち、怒りを声高に訴える手段を持たなかった人々の声を拾い上げ、民主主義にプラスの影響を与えた。一方で、気をつけなければならないのは、ポピュリストがリーダーになった時代だ。彼らは「自分たちが真の国民だ」と主張し、すべての言論や政策を正当化する。彼らの暴走を止めるためには、多くのブレーキとなる装置が必要だ。しかし、それ以上に重要なのは、彼らに寄り添い、彼らと対話することである。これからの民主主義は、この「内なる敵」ときちんと向き合うことが求められている。

2020年11月3日。 第46回アメリカ大統領選挙投票日。この4年間のトランプ大統領はアメリカ第一主義の政策を推し進めてきた。入国審査の厳格化や不法入国の取締り強化などによる移民政策、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」の離脱、NAFTA=北米自由貿易協定の見直しや中国に対して高い関税を課すなど、多国間主義やグローバリズムに否定的な対応をとってきた。そのトランプ大統領に対して評価を下す日がついにやってきた。今回の相手はオバマ政権で第47代副大統領を務めた、政治経験豊かなジョー・バイデン氏。前回とは違い、今回の選挙はだれが大統領になるかなど全く予想できなかった。選挙の開票が始まるや否や、僕はニューヨークタイムズの選挙速報とにらめっこをしていた。結果的に、トランプ大統領は敗北し、バイデン氏が次期大統領に決まった。しかし、総獲得票数に大きな差はない。ここから、分断されたアメリカの結果として誕生したトランプ大統領が、この4年間でさらなる分断をもたらしたと言えるのかもしれない。そして、これを他国の出来事だからといって、無関心であるべきではない。グローバルな世界では、私たちの行動が遠い他の地域に影響を与え、一国の取り組みが地球全体に影響をもたらす。現在直面しているパンデミックや気候変動の危機から私たちは現在進行形で学んでいる。グローバルな視点で当事者意識を持つことが、これまで以上に求められている。

本稿は2年程前に作成したレポートをもとに、加筆・修正を加えたもので、現状に当てはまらない考察もあるかもしれない。だが、ポピュリズムの大枠は理解できるような内容になっていると思う。個人的にもこれを再読したことは、改めて民主主義を考えるいい機会になった。民主主義に生きる身として、まだまだ理解が足りていないことを痛感し、もっと勉強せねばとなったので、またいつか(いつになるか…)民主主義の深掘りができたらなと思った次第です。


📽The Movies We Watched

かもめ食堂

フィンランドで食堂を開いたサチエ(小林聡美)さんのもとにたまたまやってくる人たち。お客さんはそれほど多くはないものの、出会った人たちとの触れ合いのなかで温かい暮らしを送っていく。 シナモンロール、そしておにぎりが食べたくなりました。小林聡美さんのおおらかでまったりとした性格、そのほかのキャストから生まれる映画全体の空気感が素敵すぎます😌

レイニーデイ・イン・ニューヨーク

「アニー・ホール」「マンハッタン」「ミッドナイト・イン・パリ」など、数々の名作を手掛けてきたたウッディ・アレン監督によるロマンティックコメディ。「レディ・バード」や「ストーリー・オブ・マイライフ」にも出演しているティモシー・シャラメ、「マレフィセント」や「20センチュリー・ウーマン」のエル・ファニング、世界の歌姫セレーナ・ゴメスといったフレッシュで豪華なキャストによる、雨の降るニューヨークを舞台にしたクラシックなラブストーリーが描かれている。 最近みたミッドナイト・イン・パリに重なるところも多く、同作のラストシーンで、主人公のギルとレコード屋の女の子が雨の中を散歩するシーンのように、雨の降るニューヨークを舞台にした今作品からも、「雨」のロマンティシズムを感じとることができる☔️


😎Cool Things

Cyclon

スイス発のランニングシューズブランド『On』が発表したランニングシューズのサブスクリプションサービス。トウゴマから作られるシューズは100%再利用。販売開始は2021秋の予定です👟

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Be Kind and Loving

今年は以前にくらべてたくさんの映画を観るようになったので、時間が経っても思い出せるようにと、心にのこった映画は Notion のデータベースに格納するようにしている。

November 19th

What if We Always Ask Ourselves “What if?”

「What If…?」それはとてもパワフルな問いだ。ブランドにとって、容易く使えるような問いではなく、掲げるビジョンへのコミットが絶対条件となる。このビジョン・ドリブンな問いは、問う側、問われる側それぞれに想像する力を求め、僕らの当たり前を見つめ直す機会を与えてくれる。

November 2nd
©︎ 2021 Toasterr
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